定番コスパモニタースピーカーをARCで補正すると!?『YAMAHA HS-5 HS-8 HS-8sをIK ARC studioと組み合わせたレビュー』

定番コスパモニタースピーカーをARCで補正すると!?

僕はYAMAHAのHS使用歴10年弱の古参ですが、最初に言っておきます。

「ARC Studio」ってなに?

IK multi media社の商品で、部屋鳴りを測定し、測定結果に合わせてスピーカの音を補正してくれるアイテムです。

現在使用者が圧倒的に多いであろうモニタ―スピーカーYAMAHA HSシリーズですが、今のHS-5は2013年発売なのでもう10年以上使われているモニタースピーカーですね。

僕も発売してすぐくらいから使用をはじめ、途中ADAMのA7Xに浮気したけどHSシリーズに戻ってきて、現在はHS-5、HS-8、HS-8Sを使用しています。

そんな長年使ってきたHSをARC発売から今日まで約半年ちょっと使用した感想を3点にまとめます。
(ARCも発売日に買いました)

今回の再生環境

部屋サイズ10畳前後(約5.5M×3.1Mの部屋)
スピーカー設置環境背面は拡散&吸音パネル
側面は吸音パネル
室内環境天井・床とも適度な吸音をし、壁は布クロスで反響を減らした比較的デットな環境
再生機器RME FireFace UCX Ⅱ
再生音量75~80db程度(普段は60db前後で再生)
(音量の測定はSANWAのCHE-SD1を使用しました)

スピーカーと背面の拡散、吸音パネルの配置の様子

ARCで補正して感じた3つのこと

1、定位が何倍も見えやすくなる

ざっくりしたイメージの画像ですが、センターの音がさらにセンターで鳴ります。

「ここ」だった定位が「間違いなくここです!」ってくらいに違います。

なのでパンを振るときにも迷いが少ないです。

特にインチ数の小さいスピーカー、今回だとHS-5のほうがその特徴をより大きく感じます。

インチ数の大きいスピーカーはそもそも小さいスピーカーよりも音が広い気がしていて、その分センターが狭まったとしても、小さいスピーカーより広めなセンターになっている感じですね。
(とはいってもバシッとど真ん中に決まります)

おそらくHS以外のスピーカーを補正した場合にも同じことが言えるでしょう。

2、まるで薄皮が取れたような、包み紙を取ったような解像度上昇

高音の変化

たまに補正を切ると「HSってこんな地味な鳴り方してたんだ…」なんて感じるほどに補正後はクリアな音になります。

ボーカルのニュアンスなども抜群の聞き取りやすくなります。

それ以外にもギターであればピックが弦に当たる瞬間の音やハットなどの金物の高音なども聞きやすくなります。

ただ、HS5はもともと高音についてはかなり綺麗に出ていたので、HS8のほうがそのあたりの恩恵は大きく感じます。

低音部の変化

それと同じように、明らかな効果を感じるのが低音部です。

これはあくまで個人的な意見なのですが、HS-5は低音がちゃんと聞こえません。

鳴ってるんですが、モコっとしたかたまりで出てくるのでぼやけてるんです。

それが補正後はキックとベースの動きがきちんと追いかけられますし、音程感が増して、芯が出る感じです。

ベースのフレーズの動き、低音部が持つグルーヴやうねりみたいなものがはっきり聞こえます。

僕は田舎の引きこもり作家なので、都会の商業スタジオなどで音を聴いた経験はないですが、これが位相があっているという状態なのかなと勝手に想像しています。

この低音が聞こえるのと聞こえないのとでは違う曲が生まれると思います。

実際補正してからはキックやベースが主役ともいえるような楽曲を作る機会が増えたし、改めて低音パートの重要性を実感しました。

それが聞こえなくなるともう迷子なので、補正切れません。

サブウーファーHS-8sありでも補正の効果は抜群

ちなみにHS-8sというサブウーファーも使用するのですが、いれるとまた低音が膨らむんです(笑)

サブウーファーの設置って難しくて、頑張ってほど良いバランスに調整しようとしても、最後はどうしても技術不足で追い込み切れず…

もう少し低音が欲しいけど、出したらほしくないところが膨らみ始める…みたいなところに落ち着きます。

そういうところまでセッティング出来た状態で補正するとほんとうに見事なバランスになります。

難易度の高いサブウーファーの設置も、補正ありならかなりハードルが下がりますね。

小さい音量でもベースが聞こえるので夜間の作業にもちょうどいいです。

ただ、サブウーファーありの場合は補正しても多少の欠点があり、リスニングポイントは狭めです。

大きなテーブルの下、奥のほうに置いていることも関係していると思いまずが、2、3歩テーブルから後方へ下がるとかなりローが膨らんでいます。

これは僕の設定が悪い可能性もありますが、椅子に座ってベストな位置で聞けば完璧なのであまり気にしません。

余談:MSPもすごいよ

ちなみに完全な余談ですが、補正したHS-5の音はなんとなく同じYAMAHAのMSPシリーズのような雰囲気を感じます。

MSPもやはり優秀だと思いました。
もともと立ち位置としてはMSPのほうが上位機種的な位置づけなので当然かもしれません。
(MSP3を持っていてサブの制作環境で使っています)

ただ、MSPシリーズはHSに慣れている身からするとちょっと派手になりすぎる印象があるのでHSのほうが好きです。

HS8はそれほどがっつり補正しなくても元からかなりバランスがいいほうだったので補正無バージョンもたまに聴いたりします。

HS8の大口径ゆえに不足しがちな高音域をARCで補うと、HS-5よりも奥行きが格段に見えやすくなります。

3、コスパ抜群!価格を抑えてサウンドを改善できる

たとえばすでにHSを持っている場合であれば、ARCの導入で得られる質の向上に対するコスパは異次元です。

補正つきのスピーカーを買うにもiLoudもペアで10万前後、ARCは5万前後です。

ARC studioくらいの金額でこんなにも解像度の上がったサウンドに進化できるスピーカ-に買い替えることは不可能です。

近い値段の補正機材だとSoundIDですが、僕は好きではありません…

ソフト自体の動作が微妙に怪しいときがあったりとかしたので余裕でARCに乗り換えました。

RMEのUCXⅡなど新しい機種ではSoundIDの補正情報を記録してIF上で補正できるらしいのでそっちだと安定感あったのかもしれませんね…

さらに、1,2で述べたような圧倒的なサウンドの向上がありながら、ナチュラルモードではレイテンシーがありません。

逆に言うとリニアモードではまあまあレイテンシーがあります。

ただ、ナチュラルモードで十分なクオリティなのでなにも困りません。

外部装置でありプラグインじゃないのでyoutubeやiTunesなどもしっかり補正した音で聞けるし、もう無敵ですよねこれ。

デメリットは2つ

とまあ大絶賛なわけですが、デメリットがないわけではないです。

ちょっとつまらない音になる

これは人の好みによるのですが、ちょっと面白みに欠けるかもしれません。

「若干膨らんでるなー、でも不快じゃない、気持ちいい」みたいな音があると思うんですけど、あの感じはなくなります。
(あるかな?僕だけだったらすみません)

スピーカーの持っている個性が消えるわけではないのですが、どうしても個性を薄めることになるので「このスピーカーを愛してるんだ!」的な方は期待外れに終わる可能性もあります。

そういった方は補正の強度を調整できるSoundIDを使用してほんの少しだけ補正するとかがいいのかもしれないですね。

AD/DAを2回通る

僕は聞いている限り不満はないのであまり考えませんが、20万を超えるIFで、しかもRMEはSteadyClock FSという高性能なクロックを使用しているのになんかもったいなくない?

という考え方ももちろんできます。

精神衛生上はあまりよろしくない状況ですね(笑)

ARCstudioは補正ハードとソフトとマイクセットで5万円ですから、金額だけで考えると「本当に大丈夫?」と思うのも無理ないと思います。

ただ、IK社の持つソフト・ハードどちらも開発してきたノウハウや販路などを考慮すれば低価格でよい製品を作ることは不可能ではないと思っています。

10年くらい前まではDTMや音響機材は「金額=品質」でしたが、ここ数年は「金額=品質 ただし例外もある」という状況に変わってきましたね。

一般的なDTMerにはこの組み合わせが最高!?

僕はサブウーファーのHS-8sを持っているのでそれをどう組み合わせて補正するかというのも何度も実験しました。

① HS5のみ作業の快適さ:☆☆★★★
解像度   :☆☆★★★
高音域が特に聞こえやすく、ロックやポップスにはピッタリ。
重心は高めで軽やかなサウンド。
② HS5+HS8s作業の快適さ:☆★★★★
解像度   :☆☆★★★
HS5だけの状態よりも圧倒的に低音が聞こえやすく、作業がめちゃくちゃはかどる。
ボリュームを落としてもしっかり聞こえるので夜間の制作でも安心!
中音域の再現はもう一歩で、やっぱりミックスではボリュームを上げたい。
③ HS8のみ作業の快適さ:☆☆★★★
解像度   :☆★★★★
ボーカルの艶感や曲の奥行き、ワイド感、何もかもが気持ちいいサウンドに。
ただやっぱり75dbは最低でも出しておきたい。
④ HS8+HS8s作業の快適さ:☆★★★★
解像度   :☆★★★★
ラインナップ上では現行最上位機種を組み合わせたHSのハイパワーセット。
文句なしにこの中なら最強。
HS-8単体よりも低音域に芯がでてダイナミクスが明確になりました。
ただ、大口径らしく高音域はマイルドなのでそこに注意しないとHS5と行ったり来たりしてるとハイハットの処理間違えそう。


みたいに感じました。

満点つけないのは今DSP搭載のモニタ―スピーカーがたくさん出てるので、そのあたり聞いてからじゃないと満点つけるには早いだろうという理由です。

ポップスやロックなどにぎやかなサウンドを主にやる方におすすめなのはHS5+Hs8sで、
R&BやSoulなんかにはHS8単体もしくはそれにサブウーハーを足したものがおすすめです。

しかし、HS8はある程度音量を出したほうがいい音がするので、一般的に導入しやすいモニター環境で言えば②が最強です。

実際僕も作業においてはHS-5とHS-8sを組み合わせることが圧倒的に多いです。

HS8は本当にワイド感も、奥行きも、鳴りのバランスもいいんですが、どうしてもより長く使ってきたHS-5くらいの音のサイズ感に慣れているのでつい使ってしまうので作業の快適さは同点にしていますが、②のほうが4.3くらいは星があるイメージです。

せっかくなのでまたHS-8でのミックスにも挑戦しようと思います。

ミックス迷子になりそうなDTMerの方はぜひ導入してみてください。最優先機材です。

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